斜面の崩壊確率

 この記事の続きになります。安定計算をもう一歩、推し進めます。
 前回の記事で、安定計算ではどういう条件のときに斜面が崩れるのかを計算していると説明しました。極端にいうと、ある条件において斜面が崩れるか崩れないかの判定をしています。

 一方、地盤の強度というのは大体これくらいの値というのがあって、その中でかなりバラつきます。工業製品のように一様な材質や強度ではないため、本来的に二値評価することに無理があります。

 そこで、そのバラつきを逆手に取って、バラつきの中で安定計算を繰り返します。そうすると、安全率の頻度分布ができ、確率計算が可能になります。
 安全率が1.0 を下回る確率、即ち崩壊確率:PFを求めることができます。

 実例を示します。

 上図は高さ3m超、勾配45°の斜面で、無降雨条件で、土質強度のバラつきからこれを確率解析します。

 上図は横軸が安全率で、縦軸が頻度になります。分かりにくいですが、左端の少しだけオレンジ色の部分で安全率が1.0を下回っており、安全率=1.646、崩壊確率=0.1%です。ほぼ、崩壊しないであろうというのが分かります。
 少し条件を厳しくして、斜面に被圧水を作用させます。(豪雨条件)
 
 オレンジ色の部分が増え、安全率=1.400、崩壊確率=2.1%となります。
 さらに条件を厳しくして、降雨に加えて地震で揺らしてみます。

 安全率=0.999、崩壊確率=40.8%となり、崩壊する確率がかなり高くなります。降雨+地震の条件だと、運が良ければ崩壊しないこともあるかもしれない、と判断されます。

 以上は、海外製のソフトを使うことで簡単に計算することができます。これまで紹介してきた原位置での土質強度測定順算による安定計算から、崩壊確率を導くことができます。
 しかしながら、以上の手法は日本国内では普及していません。
 この根底にあるのは、壊れたら直せばよい、という考えです。
 次のステージとして、壊れる前に手当てしておくモードになっていけば、これらの手法が使われていくようになると思います。