大規模盛土造成地の変動予測調査の流れ

 現在、国の施策として滑動崩落対策事業が、地方自治体によって進められています。
 その概要を以下の図に従って簡単にまとめてみます。


図1 大規模盛土造成地の変動予測調査等の流れ
(大規模盛土造成地の滑動崩落対策推進ガイドラインより抜粋)

<変動予測調査の流れ>
Ⅳ.大規模盛土造成地マップ
・一定規模以上の盛土を抽出
・小さい盛土は対象外
・全国で5万箇所以上
・この段階は抽出までで安定度評価はしない

※R2年3月には全国で大規模盛土造成地マップの公表は完了しています。
※大規模盛土はほとんどが造成宅地で、ひとつの盛土に100戸ほどの住宅があるとして、それが5万箇所以上あるので、該当する方はかなり多いと思われます。


Ⅴ.第二次スクリーニング計画の作成
・地盤調査、安定計算を行う盛土の選定
・図2のフローに従って優先度を評価
・選定基準①:盛土が標準的な形状と構造か →該当しない →優先度:高
・選定基準➁:盛土の変状の有無      →変状あり  →優先度:高


図2 第二次スクリーニングの優先度評価のフロー
(大規模盛土造成地の滑動崩落対策推進ガイドラインより抜粋)

ここで述べたように滑動崩落の変動・非変動は、横断形状幅/深さ比)が重大な要因であることが原理的に分かっています。

図3 側方抵抗モデルの模式図(中埜ほか(2012))
すべり台は底面摩擦が小さいので滑っていく。減速は側面の手すり(側方抵抗)で行う。

※ところが、図2のフローでは、横断形状幅/深さ比)を反映した評価基準である変動確率が、順番として最後の6番目になっています。
※滑動崩落現象の原理を考えれば、変動確率による評価は、最初に行うべきものですが、現在のガイドラインはそうなっていません
盛土の構造や変状の有無は、滑動崩落の変動・非変動と原理的には何の関係もありません。
※その結果、図2のフローによって出された結果は、現実にそぐわない出鱈目なものになる可能性が高いです。実務で変動予測調査に携わる技術者の多くは、このフローの異様さに気が付いていると思われますが、これは使われ続けています。
※なぜ、このようなねじ曲がったフローになってしまったのか、理由はよく分かりません。


Ⅵ.第二次スクリーニング
・ボーリング調査、土質試験などの地盤調査の実施
・地盤調査の結果から安定計算を行う

※滑動崩落は、横断形状幅/深さ比)が重大な要因であることから分かるように、三次元物体の移動現象であるため、原理的に三次元でないと解析は不可能です。
※ところがガイドラインでは、安定計算を二次元で行うことになっているので、安定計算の結果も現実にそぐわない出鱈目なものになる可能性が高いです。(おそらくほとんどの盛土で安全判定となる)
※盛土の優先度評価フローも出鱈目なら、安定計算の結果も出鱈目で、
“大規模盛土造成地の滑動崩落対策推進ガイドライン”は滅茶苦茶なものになってしまっています。



<震度6程度の地震が起きたときどうなるか>
 阪神淡路大震災や東日本大震災の事例から、その地域の盛土の4割程で変動が生じることが予想されます。おそらく、安全判定が出された盛土で変動が起こるものと思われます。
 そうすると、安全判定が出されたのに被害が生じたことになり、責任の所在が問題となるでしょう。
関係者として以下が挙げられます。
・国(盛土のルール作る)
・地方自治体(ルールを運用)
・開発業者(盛土を造って売る)
・建設コンサルタント(国に従って変動予測)
・土地の所有者(被害を受け生活の立て直しが必要)

 大地震による被害を考えるとき、被害を受けても国や自治体が公費で助けてくれるだろう、とよく言われます。
 しかし、壊れたものを元通りにすることは、大きな負担になります。いざというときの備えは必要ですが、できるだけ被害を受けない、または被害を小さくすることが肝要です。


<現在>(2023年2月)
 第二次スクリーニングが始まっており、完了している所もあります。
 ガイドラインを見ると、国は、基準どおりの盛土にはできるだけ安全判定を出したい意図が伺えます。
 今後、発生する南海トラフや首都直下の地震で、多くの盛土の変動が予測されますが、国は安全判定をしておいて被害が出たら公費で復旧するものと思われます。
 変動予測とはいっても、 とりあえず大半の盛土に安全判定を出して、いざ被害が出たら公費で復旧というスキームになっています。
 現状のガイドラインでは、かなりボロい盛土や擁壁でないと危険判定になりません。

 以上が、国の施策によって行われている”大規模盛土造成地の変動予測調査”の概要です。
 現状で大地震による被害を事前に小さくする要素は皆無といってよく、大規模盛土造成地は地震に対してノーガードに等しい状況です。厳しい現実と言わざるを得ません。