聞き慣れない言葉と思いますが、便法(べんぽう)について述べてみます。
<便法(べんぽう)とは>
二つの意味があります。
a.物事を処置するうえでの効果的な方法や手段。
b.ある行為を行ううえでの便宜的な方法。最も効果的ではないが、その場をうまくきりぬけ、それなりの効果がある方法。
a.が「効果的な方法」という意味なのに対し、b.はベストな解決法がないときに、 一時しのぎとして取る方法という意味になります。
ここでは、b.の意味について述べたいと思います。
<斜面分野では>
斜面分野で言うと、地すべり安定解析の “逆算法”が、b.の便法に当たります。
逆算法とは、安定計算で答えとなるはずの安全率を設定して、そこから逆算して土質強度を計算し、必要抑止力を求める手法です。仮に決めた答えから未知数を求めるので、逆算法と呼ばれます。
本来は順算法が王道のはずですが、 当時は適切に土質強度を求める方法がなく、 仕方なしに逆算法が作られたものと思われます。
現在は、便法である逆算法から抜け出す下地が十分にあるのに、 なかなか抜け出せずにいます。
<抜け出せない理由>
時間が経過して技術が進歩して、より良い方法が取れるのに、 古い便法が既得権になってしまって、 どうにも変えることができないのが今の状況だと思います。
便宜上の手段として作られたものが、 いつの間にか不可侵の経典のようになっています。
一度決めたことを変えたがらない国民性も あると思います。
便法を取るしかなかった先人も、 まさかこんなに長い間、同じ方法が使い続けられる とは考えなかったことでしょう。
<便法の気づきにくさ>
便法には、そのとき解決できなかった課題をうまくかわして、根本的な対策ではないものの対応できるようにした側面があります。
便法がそれと気づきにくいのは、表向きはうまくいっているように見えるからです。
便法が作られた当時の超えられなかった課題に気が付き、その課題を解決する筋道に思いが至らないと、その存在を認識できません。
現状をより良くしようという意志がないと、便法の存在に気が付けないのです。
現状を維持しようとする力は便法に固執します。それでも情勢は変化していき、いずれ便法で立ち行かなくなるときが来るはずです。
おそらくですが、日本の法律や慣行のかなりの部分に 便法があるのではないでしょうか。
様々な場面で便法がないか、考えてみるのも面白いと思います。