大雨警報が出ているときにニュースキャスターの方が「土の中の水分量が高い状態なのでお気を付けください」と言っているのを聞くようになりました。
おや?と思わないでしょうか。土の中の水分量って何でしょう。地面を広範囲に計測しているのでしょうか。
そんなことはなく、これは“土壌雨量指数”が高い、ということを指している文言と思われます。
土壌雨量指数とは、降雨量から土の中の水分量を計算して出したものです。タンクモデルという概念を用いて、土の中の水分量を降雨量から仮想的に推定したものになります。第1から第3までのタンクがあり、それらのタンクに貯まった水分の合計が土壌雨量指数ということになり、土の中に貯留した水分の推定値となります。
(下図参照、気象庁の解説ページより抜粋)
雨がたくさん降ると、だんだんタンクからの水の流出が追い付かなくなっていき、どんどん水が貯まっていきます。そうなると土砂災害発生の危険度が高まるということです。
次に気になるのは、どの程度の水がタンクに貯まったら、土砂崩れが起きるのだろう?ということです。例えば、北海道と鹿児島を比べて同程度の土壌雨量指数になったとき、同じように判断していいはずがありません。
そこで導入されたのが“履歴順位”の考え方です。これは、過去にその場所で降った降雨の中で何番目に強い雨か、という考え方です。履歴順位の考え方を用いて土壌雨量指数を整理したところ、履歴順位1~3位のときに土砂災害の9割が発生していることが分かりました。(下図参照、東京都の平成3~9年を集計)
出典:「消防防災の科学」No.60 (2000年春号),土砂災害の軽減に向けた「土壌雨量指数」の開発
この考え方を用いて、土壌雨量指数の履歴順位が高くなってきたら警報を発令するという運用を行っているのが現在です。こうした裏付けがあって発令される大雨警報や土砂災害警戒情報は、信頼性が高いと言えます。
この履歴順位の考え方の面白い点は、土砂災害の発生を評価しているのに、地形や地質といった地盤に関する条件が含まれていない点です。つまり土砂災害発生のトリガーは降雨→土壌雨量→地下水であり、ある程度以上の厚さの表層土砂層をもつ斜面は、履歴順位1位相当の降雨で崩れる、ということを意味します。
こうして見ると、土砂災害が発生した場所で「ずっとここに住んでいるがこんなことは初めてだ」というコメントは、至極当然のものだと言えます。